「看做(みな)す」と「推定する」の違い

1 法学部の1年生向けの授業で必ず習うテーマですので,ご存知の方も多いかもしれません。
 法律の構造は,一定の要件を具備すると,一定の法律効果が発生するという要件と効果の構造でできています。「看做す」と「推定する」という言葉は,法律の要求する要件を満たしていない場合でも,要件を満たした事にして法律効果を発生させるための文言です。
2 「推定する」という文言は,ある要件Aを満たしてはいないけれども,要件A´を満たしていれば,要件Aを満たしていることに一応決めるというものです。
 たとえば,民法186条2項は,「前後の両時点において占有した証拠があるときは,占有は,その間継続したものと推定する。」と規定しています。
 占有の継続を主張する人は,最初から最後までの継続した占有(要件A)を主張することが本来は必要ですが,「推定する」おかげで,最初と最後の占有(要件A´)を主張すればよいことになり,逆に占有の中断を主張する人は,その間の中断を主張することになります。
3 一方,「看做す」という文言は,要件Aを満たしていないことが明らかなときに,要件Aを満たしていることにしてしまう文言です。
 たとえば,民法886条1項は,「胎児は,相続については,既に生まれたものとみなす。」と規定しています。胎児は生まれていないことは明らかですが,相続に限っては生まれたことにしています。
4 難しい法律の本を読むと,「推定する」と「看做す」の違いは反証可能性の有無だと書かれて,なんだか分からなくなることが多いですが,用法を考えてみれば当たり前のことですね。