憲法96条は改正できるのか?

1 昨今,憲法96条改正論が巻き起こっています。
 憲法96条は,憲法の改正についての要件を定めた規定です。
 憲法の改正には,衆議院参議院の各総議員の3分の2以上の賛成を得た上で,国民投票過半数の賛成を得る必要があります。
2 このような改正要件はあまりに厳しいので,もっと簡単に憲法を改正しようというのが今の議論ですが,そもそも憲法96条を改正することはできるのかという問題があります。
3 憲法96条を改正することができないという根拠についての代表的なものとして,自己言及論があります。主語と目的語が同一なので論理破綻しているというものです。「張り紙禁止」という張り紙が許されるのかという形式議論で,実質的な根拠ではありません。
4 私は,憲法96条を改正することは不可能ではないと思いますが,他の条文の改正よりもハードルが高いのだろうと思っています。
 現在,表現の自由を保障する憲法21条を改正しようとする場合,憲法96条の改正要件による必要があります。憲法21条を改正しても,他の憲法の条文への波及効果は限定的です。国会や内閣の組織について規定した条文への影響は皆無でしょう。
5 憲法96条を改正して憲法改正要件を緩和した場合には,憲法96条はもとより,憲法21条や刑事手続きを定めた憲法31条も緩やかな要件で改正することができるようになります。
 すると,憲法96条を改正することは,他の憲法の条文すべての改正要件を緩和してしまうことになるのです。
 したがって,憲法96条は他の条文よりも改正のハードルが高いのだと私は思います。