現行犯逮捕について

現行犯逮捕という言葉についてはみなさんも聞いたことがあると思います。

刑事訴訟法212条1項には次のように書かれています。
「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者を現行犯人とする。」
そして、同法213条で、「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」とされています。
つまり、現行犯人については、誰でも、逮捕状がなくても逮捕することができるのです。
本来であれば、令状主義といって、逮捕などの強制処分をするには、裁判官が発する令状が必要なのですが、それの例外として認められています。

では、どのような場合、現行犯人として逮捕できるのでしょうか。

①まずは、逮捕する人において、犯人による特定の犯罪であることが明白であり、かつ、犯人も明白でないといけません。
ですので、客観的には犯罪が行われていたとしても、その現場における状況などから判断して、犯罪行為であることが明白でなければ、現行犯人とは認められません。

②次に、「現に罪を行っている者」か「現に罪を行い終わった者」といえなければなりません。
「現に罪を行っている者」とは、特定の実行行為を行いつつある犯人であって、それが逮捕する人の目の前で行われている場合をいいます。
「現に罪を行い終わった者」とは、特定の犯罪の実行行為を終了した直後の犯人であって、そのことが逮捕する人に明白である場合をいいます。
ここでいう、犯罪の実行行為を終了した直後とは、行為を行い終わった瞬間、または、これに極めて接着した時間的段階のことです。
具体的にどの程度の時間をいうのかを限定することはできませんが、最大限、3、40分程度とされています。
実際、過去の裁判例では、暴行等の犯行から3、40分後の逮捕を適法とし、映画館での公然わいせつの犯行から約1時間5分後の逮捕や、自動車の当て逃げの犯行から約1時間後の逮捕を違法としています。
また、犯人が犯行現場から移動することもありますが、犯人が犯行現場から離れれば離れるほど、犯行と逮捕の時間的接着性がなくなりますし、犯人がそれ以外の人と混同されて、犯人の明白性も失われますから、場所の接着性も必要になります。
これも、具体的に何メートルとは限定できませんが、最大限、2、300メートル程度とされています。
過去の裁判例では、住居侵入の現場から約30メートル離れた地点での逮捕を適法とし、脅迫罪の犯行終了から約40分後に、犯行現場である被害者の自宅から250メートルから300メートル離れた警察の派出所での現行犯逮捕を違法としています。

③最後に、現行犯であることの判断は、逮捕する時の具体的状況に基づいて客観的に行わなければならず、事後的に純客観的な判断によることはできません。

このように、現行犯逮捕するための要件は厳しいのです。
それは、先ほど述べたように、令状主義という大原則の例外として認められているものだからです。
ですから、現行犯逮捕は安易になされるべきではなく、通常逮捕や緊急逮捕の手続が踏めるのであれば、それらの手続によるべきということになります。

なお、現行犯逮捕に似たものとして準現行犯逮捕というものもありますが、これはまたの機会に。